top of page

上陸記念日に

 ひょんなことからLAに住むことになって、17年が経つ。10年を過ぎた頃から毎年「上陸◯周年おめでとう!」のカードが日本の家族から届くようになり、12月のその日は、少し感慨にふけったりする。  最初に覚えたのはバスの乗り方。まず、ダウンタウンのARCOタワー地階のMTAのカスタマーセンターで、目的地の路線図を手に入れる。案内してくれた彼女はBMWを持っているのに、トーレンスまでバスで行っちゃうほどのバス通であった。おかげで、LAX、パサデナ、グレンデール、バーバンクのIKEA、LACMAまでもバスで行ったものだ。1ドル35セント(今は1ドル75セント)の運賃が、トークンを買うと90セントで乗れた。程なくタップカードになりメトロも利用できるようになったが、改札口はナシという大らかさだった。  バスのシートはブリキの上に布を張っただけでスプリングなどなく、座り心地はすこぶる悪かった。しかも、降りる時の合図は、窓際のヒモを引っぱって知らせる。これがアメリカ? と信じられなかった。駅名などないから、アナウンスもなく、乗り越さないように必死だ。ウッカリ居眠りなどしてられない。もっともLAの悪路がゴツンゴツンとお尻にひびくから、居眠りどころではないが。  映画のロケにもよく引っ掛かった。そんな時はコース変更も平気でする。乗客への一言の断わりもない。その間の駅で降りる人はどうするのだろうと心配する。渋滞で運転手がイラついて勝手に空いた道を選ぶこともあったりする。長年LAに住んでいる先輩方でも、特に日本人は、バスになど乗ったことが無い人が多いのではないだろうか。  車内では完全にレディーファーストだったが、それが、近年はどうだろう、優先座席に若者が平気な顔をして座っている。ああ、日本と同じになってきたと思う。  先日、何年ぶりかでダウンタウンの中心、高層ビルの建ち並ぶオフィス街に出掛けたが、渋滞はひどく、ひしめく車の排ガスで息もつけない程の変貌ぶりに驚かされた。  1街では今、メトロ・ゴールドラインの接続工事が進められている。地下鉄網がどんどん伸びて、日本のように電車通勤が一般的になる日もそう遠い先のことではないかもしれない。【中島千絵】

12 views0 comments

Recent Posts

See All

熱海のMOA美術館に感動

この4月、日本を旅行中に東京から新幹線で45分の静岡県熱海で温泉に浸かり、翌日、山の上の美術館で北斎・広重展を開催中と聞き、これはぜひと訪れてこの美術館の素晴らしさに驚き魅せられた。その名はMOA美術館(以下モア)。日本でも欧米でもたくさんの美術館を見たがこれは 所蔵美術品の質と数の文化的高さ、豊かな自然の中に息を飲むパノラマ景観を持つ壮大な立地、個性豊かな美術館の建築設計など卓越した魅力のオンパ

アメリカ人の英国好き

ヘンリー王子とメーガン・マークルさんの結婚式が華やかに執り行われた。米メディアも大々的に報道した。  花嫁がアメリカ人であるということもあってのことだが、それにしてもアメリカ人の英王室に対する関心は異常としか言いようがない。  なぜ、アメリカ人はそんなにイギリス好きなのだろう。なぜ、「クィーンズ・イングリッシュ」に憧れるのだろう。アメリカはすでにイギリス系が多数を占める国家ではない。いわゆるア

野鳥の声に…

目覚める前のおぼろな意識の中で、鳥の鳴き声が聞こえた。聞き覚えがない心地よい響きに、そのまま床の中でしばらく聴き入っていた。そうだ…Audubonの掛け時計を鳴かせよう…  Audubonは、全米オーデュボン協会(1905年設立)のことで、鳥類の保護を主目的とする自然保護団体。ニューヨークに本部がある。今まで野鳥の名前だと思っていたが、画家で鳥類研究家のジョン・ジェームス・オーデュボン(1785

bottom of page