top of page

終戦の日に

 映画監督の大林宣彦監督は1年程前、新作映画撮影の前日に肺がんの第4ステージ、余命3カ月の宣告を受けていました。宣告を半年以上超えて東京の映画祭の授賞式で語ったのは、自分自身のことではなく、世界から戦争が無くなる日を願うメッセージでした。故・黒澤明監督が若き日の大林監督に語った言葉があったそうです。「大林くん、人間というものは本当に愚かなものだ。いまだに戦争をやめられない。しかしこんなに愚かなものはないけれど、人間はなぜか映画というものを作った。映画というものは不思議なもので、事実を超えた真実、人の真を描くことができる。映画には必ず世界を戦争から救う、世界を平和に導く美しさと力があるんだよ」という言葉を紹介しました。大林監督の映画作りの源は、黒澤監督のこの言葉にあるのだと今さら思い知らされました。  大林監督ご夫妻をLAにお招きしたのは2015年のことでした。日米開戦の地ホノルルと、その後の熾烈な戦闘があり、1954年に水爆実験が行われ、いまだに帰島できない島民がいるビキニ環礁があるマーシャル諸島にて映画を上映し、最後の訪問先がLA上映でした。戦争慰問の旅で上映された映画はどれも、戦争を憎み、平和を祈願するものでした。  目を閉じ、その場の空気を感じてひたすら話し続ける大林監督の姿が印象的でした。時間を忘れて映画のことよりも、平和のことを語り続けました。「(今の人には戦争の実感がないと思うが)戦争というものはね、ここにあったんですよ。ここにあったんです。この日常の中にあったんです」「個性も宗教も全く違う人間同士が、仲良く一緒に生きようと伝えるメディアが映画なのです。それを伝えるために映画を作るのです」という誰にも止められない強烈なメッセージが、私たちの心を揺さぶりました。  終戦の日に、72年間戦争をしていない国の奇跡を思うと同時に、『平和は無意識では守れないのだ』という遺言のようなメッセージが黒澤監督から大林監督に引き継がれ、そして新しい価値観をもつ多くの映画人にも引き継がれていくことを願いました。【朝倉巨瑞】

0 views0 comments

Recent Posts

See All

熱海のMOA美術館に感動

この4月、日本を旅行中に東京から新幹線で45分の静岡県熱海で温泉に浸かり、翌日、山の上の美術館で北斎・広重展を開催中と聞き、これはぜひと訪れてこの美術館の素晴らしさに驚き魅せられた。その名はMOA美術館(以下モア)。日本でも欧米でもたくさんの美術館を見たがこれは 所蔵美術品の質と数の文化的高さ、豊かな自然の中に息を飲むパノラマ景観を持つ壮大な立地、個性豊かな美術館の建築設計など卓越した魅力のオンパ

アメリカ人の英国好き

ヘンリー王子とメーガン・マークルさんの結婚式が華やかに執り行われた。米メディアも大々的に報道した。  花嫁がアメリカ人であるということもあってのことだが、それにしてもアメリカ人の英王室に対する関心は異常としか言いようがない。  なぜ、アメリカ人はそんなにイギリス好きなのだろう。なぜ、「クィーンズ・イングリッシュ」に憧れるのだろう。アメリカはすでにイギリス系が多数を占める国家ではない。いわゆるア

野鳥の声に…

目覚める前のおぼろな意識の中で、鳥の鳴き声が聞こえた。聞き覚えがない心地よい響きに、そのまま床の中でしばらく聴き入っていた。そうだ…Audubonの掛け時計を鳴かせよう…  Audubonは、全米オーデュボン協会(1905年設立)のことで、鳥類の保護を主目的とする自然保護団体。ニューヨークに本部がある。今まで野鳥の名前だと思っていたが、画家で鳥類研究家のジョン・ジェームス・オーデュボン(1785

bottom of page