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席を譲られる

 杖をつき電車に乗ると携帯から目を上げた男性がさっと立って席を譲ってくれた。横にいる家内を見かけ、隣に座っていた女性も立ち上がり「奥さまどうぞ」という。お礼をいって座る。微笑ましいカップルだなあと心が温かくなる。小学生の子供に立たせて席を譲ったお母さんもいた。自分もそんな年齢になったのだとつくづく思う。  数年前に脚の骨を折り、杖をついて電車で席を譲られることが多くなった。通勤時間と遅い時間を除いては大抵の時間帯で席を譲ってくれる。なかには反対側に座っている人がわざわざ立ち上がって肩を叩き席を譲ってくれる人もいた。譲るのは中年が多く、中には外国人もいる。若者は2種類。席を譲りたいのだがその勇気が出ない人、もう一種類は自分のことに夢中の人。いずれも若さのためだろう。人はそういう時期を経て大人になる。  疲れている時、荷物を持って杖をつきふらついている時は本当に有難い。席を譲られた時は素直に厚意を受けることにしている。たとえ次の駅で降りる一駅であっても、勇気を出して席を譲った人にバツの悪い気持ちにはさせたくない。その代わり声に出してお礼をいい、降りる時にも重ねてお礼をいう。自分でも席を譲った後はなんとなく一日良い気持ちがするものだ。若い人は席を譲ったあとで少し遠くへ移動する人が多い。せっかく良いことをしてもきっと恥ずかしいのだ。  まわりに弱者がいると手を指し伸べたくなる。これは社会的動物である人間の自然な感情だろう。人間はそのように弱者をかばいながら生きてきた。LAでは車の移動だったのであまり気付かなかった。アメリカでもヨーロッパでもアジアでも譲り合いの気持ちは同じだろう。日本人も時代とともにかなり気質は変わったとはいえ「和をもって尊しとす」という気持ちは心の底に根付いているようだ。  LAはもうクリスマス一色、そして日系社会では今年も「歳末助け合い」の募金が始まることだろう。中東では戦乱が続き大量の難民がヨーロッパへ流れ込む。早く世の中が落ち着き、なんとか皆が幸せに年末を過ごし良い新年を迎えることを願いたい。【若尾龍彦】

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