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250ドルのレシピ

 先ごろ日本から帰ってきたばかりの友人から「実家のご近所の奥さんがお土産に持たせてくれたものです。よかったらどうぞ」と小さな入れ物に入った佃煮のようなものをおすそ分けで頂いた。  食い意地の張った私のこと、ランチの時間も待たずつまんでみるとこれがおいしい。  薄切り生姜と椎茸をじっくり煮たもので、なんとも後を引く味。これで炊きたてのご飯があれば…と思いながら友人にレシピを訊ねたところ、くださった方からあっさり「教えません」と断られたそうで、作り方は不明。  どうやら秘伝の一品で、そう軽々しく他人に公開出来ないらしい。  教えてもらえないとなるとなおさらレシピが欲しくなり、それなら一丁自分で作ってみようと果敢(?)にも挑戦。  自分勝手に細切り昆布や削り節など足しながら醤油や砂糖、みりんの足し算引き算で、何とかオリジナルに近い味までこぎ着けた。そこで自慢の佃煮風を身近な人に押し付けて「どう?おいしい?」と味見を強要している。  これに似た話を、もう一人の友だちMさんから聞いたことがある。ある白人の家のパーティーに招かれて、大層おいしいケーキをご馳走になったそうで、ケーキを焼いてくれたAさんに「レシピを頂けないかしら?」とたずねたところ「わたしのレシピは高いのよ。250ドルでよければ譲ってもいいわよ」と言われたという。その態度からどうやら本気らしいと驚いた友達は、「250ドルで?」と念を押したがAさんは悪びれる様子もなく、こっくりとうなずいたそうだ。  一瞬むっとしたがチェックブックを出して250ドルの小切手を切りAさんからケーキのレシピを買い取って帰ったMさんは、どんどんコピーしては友達に無料で配りまくって留飲を下げたという。  おいしいものはみんなで分け合えばさらにおいしくなる。商売ならばともかく、自分にしか作れない一品である必要も無い。  私は生姜と椎茸の佃煮風のレシピを乞われれば無料で進呈している。中には「自分で作るより頂いたほうがおいしいからお願いね」などという態度の大きい友達もいるにはいるが…。【川口加代子】

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