top of page

読みにくい本

 随筆集を上梓したと、友達から一冊の本が送られて来た。きれいな表紙に、ずっしりと重量感もあり立派なものだ。  どれどれ? と読み始めるが、何行も読まないうちに目が疲れてくる。年のせいだろうかと思いながら、幾度か挑戦するのだけれど、根気が続かない。  そういえば、本を開いた時に違和感があった。文字間が詰まっているし、行間も少し狭いような気がする。左右の余白も少ないような…。色紙にうまく描く方法は、まず第一に、上下左右に余白を設けることだと正月のテレビ番組でレクチャーしていたのを思い出す。なるほどそのポイントを押さえるだけで、素人の作品がスッキリと上手そうに見えていた。  私は読書家ではないから、それほどたくさんの本を読んできたとはいえないが、人生今までで、初めての違和感だった。あらためて自分の本棚の小説などをパラパラと繰ってみる。どれも、そのページがとても美しく感じられた。ということは、今まで考えてみもしなかったけれど、本というものは、文字のサイズ、形だけでなく、行間、字間、余白の部分などよほど考えて構成されているものなのだと、今さらながら感じ入った。  本棚には、小説の他に日本の人気料理家の本が2冊ある。きれいな写真とオリジナルレシピに引かれて買ったものだが、ひとつ気に入らないのは、ページ表示が本の内側(綴じ側)に書いてあって、ハードカバーの本ではとても見にくいこと。もう一冊はまるで美術書のように、文字と余白のレイアウトにまで凝っていたりするのだが、今、あらためて見ると文字がとても小さいことだ。料理本に関していえば、文字が見やすく、調理台の上にベタっと広げやすいソフト綴じの本が最適だと思うのだけれど。まあ、人それぞれ、かもしれないが。  辞書の編さんをテーマに描かれた映画「舟を編む」では、用紙を選ぶ時に「軽くて、薄くても裏写りがなく、ページが指に吸い付くように一枚ずつ繰れる」ことが要求されていて、そのこだわりに感動させられた。  電子書籍があり、タブレットでニュースを見る時代かもしれないが、彼女の本のおかげで、図らずも印刷本への愛着を再確認することとなった。【中島千絵】

0 views0 comments

Recent Posts

See All

熱海のMOA美術館に感動

この4月、日本を旅行中に東京から新幹線で45分の静岡県熱海で温泉に浸かり、翌日、山の上の美術館で北斎・広重展を開催中と聞き、これはぜひと訪れてこの美術館の素晴らしさに驚き魅せられた。その名はMOA美術館(以下モア)。日本でも欧米でもたくさんの美術館を見たがこれは 所蔵美術品の質と数の文化的高さ、豊かな自然の中に息を飲むパノラマ景観を持つ壮大な立地、個性豊かな美術館の建築設計など卓越した魅力のオンパ

アメリカ人の英国好き

ヘンリー王子とメーガン・マークルさんの結婚式が華やかに執り行われた。米メディアも大々的に報道した。  花嫁がアメリカ人であるということもあってのことだが、それにしてもアメリカ人の英王室に対する関心は異常としか言いようがない。  なぜ、アメリカ人はそんなにイギリス好きなのだろう。なぜ、「クィーンズ・イングリッシュ」に憧れるのだろう。アメリカはすでにイギリス系が多数を占める国家ではない。いわゆるア

野鳥の声に…

目覚める前のおぼろな意識の中で、鳥の鳴き声が聞こえた。聞き覚えがない心地よい響きに、そのまま床の中でしばらく聴き入っていた。そうだ…Audubonの掛け時計を鳴かせよう…  Audubonは、全米オーデュボン協会(1905年設立)のことで、鳥類の保護を主目的とする自然保護団体。ニューヨークに本部がある。今まで野鳥の名前だと思っていたが、画家で鳥類研究家のジョン・ジェームス・オーデュボン(1785

bottom of page