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紫陽花とカズさん

 この時期になるとわが家の庭のアジサイが、ひっそりと咲き、水に濡れると花びらや葉っぱが生き生きと輝きます。アジサイの語源は諸説ありますが、藍色の花が集まっていることから「あづさい」(集真藍)の転じたものとの説があります。漢字表記で使われる紫陽花は、唐の時代の詩人である白居易がライラックに対して付けたものが、日本に入ってきて誤ってアジサイの漢字表記となっていったそうですが、今となってはそれ以上ない当て字だと思います。  そして先日、カズさんの訃報が届きました。カズさんとは、米国広島・長崎原爆被爆者協会会長であった据石和江さんのことです。数年前に在米被爆者のインタビューのためにお話を聞き、その後、総領事館の集まりなどでもお会いして、その達者なお話ぶりに毎回耳を傾けさせてもらっていました。カズさんはアメリカで生まれ広島に育ち、18歳の時に被爆しました。その後アメリカに戻ると、在外被爆者が健康診断を受けられるように尽力をしました。  在米の被爆者は現在700人程いるのですが、話をしてくれる方を探す作業は難航し、在米被爆者の方々からお話を聞くことはとても難しいと感じましたが、カズさんは残り少ない原爆の語り手として、平和の大切さを何時間も語ってくれました。「本名は何というのですか?」と聞いても、「みんな昔からカズと呼ぶから、それでいいのよ」とぶっきらぼうに語り、「アメリカを憎んでいますか」と聞くと、「戦争は憎いけどアメリカは憎んでいない」きっぱりと言うカズさんに、平和を愛する強い思いを感じたものでした。  鎖国時代に来日したシーボルトは、新種の紫陽花に自分の妻の名前「お滝さん」から「オタクサ」と名付けて、国外追放になっても大切にドイツに持ち帰ったそうです。紫陽花の花言葉には、「元気な女性」「辛抱強い愛」「深い絆」があります。亡くなるまで平和を語り継ぐことを決して辞めなかったカズさんは、紫陽花のように藍(愛)を集めて語り、平和の大切さと国を超える絆を伝えていきました。カズさんの人生に多くのことを学ばせてもらいました。【朝倉巨瑞】

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