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白人好きな日本人

 1人の日本人を取り囲む白人たち。多くはスーツ姿の男性。通勤中の地下鉄で見た英会話学校の広告だ。日本も少しは多様性を重視する社会になったと思っていたが、このあまりのステレオタイプぶりに辟易する。  先生を自由に選べる英会話学校では白人の講師が人気だとアジア系ネイティブたちに聞いたことがある。アジア系も白人も日本には「白人特権」があることを認める。通訳学校の白人女性講師は、日本人の校長が「雇うなら白人のスーツを着た男性だ」と断言し呆れていた。  英語を話す人イコール白人ではないし、英語の先生イコール白人でもないのは言うまでもない。それでも白人特権や白人崇拝が存在するのは、それが日本人が憧れるシチュエーションだからなのだろうか。  ある社会学者によると、日本人は自らを他のアジア系民族と区別して白人と同一視してきた歴史があるという。アパルトヘイト体制下の南アフリカで名誉白人の地位を与えられて喜々としていたこと。いまでも在日コリアンや他のアジア人を排除しようとする動きがあること。それらは日本人がアジアの中で特別な民族だと無意識に思っているからなのではないか。  そんな日本人は、遠い国アメリカで起きている白人至上主義者たちと反対派の衝突を他人事であるとスルーできるだろうか。  かつて白人至上主義の男性にインタビューをしたことがある。トランプ信奉者の彼は日本人である私にとても親切にしてくれた。「日本人は白人の次にすばらしい民族だ。私は日本人、そして日本をルーツに持つ日系アメリカ人をとても尊敬している」と自説を語り、太平洋戦争中の日系人に対する強制収容は間違った政策だったとも話していた。  日本人や日本が好きと言われていやな気はしない。ただものすごく複雑な気持ちになる。彼は戦後の日本や日本人への憧れから生まれたメイドインジャパンの白人至上主義者なのだ。事実、彼の名前や経歴はアメリカで右翼活動を監視する人権団体「南部貧困法律センター」に刻まれている。  日本人、日系人、そして白人。それらの関係や歴史は現代社会の奥深くにまで根付いているようだ。なんだか自分のアイデンティティーが崩壊しそうだが、それを追求する旅は始まったばかりだ。【中西奈緒】

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