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正月の句や歌でともあれ謹賀新年

 新年を迎える気持ちが年を重ねると若い頃とは当然に違うのが分かる。思春期の頃は正月を迎えるのは心改まる大事だったらしく、元旦に力んで新年の目標などを書いて決意新たに一年に望む心構えになったものだ。年を重ねてくれば何十回も繰り返して来た体験だから、晦日と正月の行事を淡々と迎える心境だ。その中で少しは新しい目標も持とうとする。その心境にあって、先人たちが残した五万とある正月にちなむ句や歌の中から、心に浮かぶ幾つかを反芻してみた。  (めでたさも中ぐらいなりおらが春)小林一茶。多くの人が味わい、うまいなと感じる句。一茶の場合は年齢から来る枯淡の境地というより、平坦ではなかった私生活の境遇と諦観から来ていると思えるが、われら市井人は生活状況よりも齢による落ち着きから自然に至る心境に思える。  一茶には(故郷や馬も元旦いたす顔)もある。故郷やというから故郷でない場所で詠んでいて正月には馬も元旦らしい改まった顔をしていたと故郷を懐かしく偲ぶ望郷の句。生地の正月を思う心は共感する人も多いはず。  (めでたさも一茶位や雑煮餅)これは正岡子規。子規は一茶を評価した代表的な俳人だから一茶へのオマージュ的な句に見える。子規の場合は結核の闘病生活が続いて若く終った人生だったから年輪でなく人生の状況から自ずと出た心境と想像する。  子規の後継者、高浜虚子に(草の戸に賀状ちらほら目出たさよ)がある。草の戸とあるから自分の家を貧しく粗末な家と表現しそんな家にも年賀状がちらほらと配達され嬉しく目出たいことだと詠んでいる。写実の中に人柄が伺える。  (正月や冥土の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし)よく知られた一休宗純の短歌。正月の語は元旦、門松、に置き換えて狂歌とする説もある。血筋良い生まれだが禅僧となり乱世に破天荒の生き様を送った一休は、正月に杖に骸骨を付けて練り歩いたという話が知られていて、人間臭く生涯やりたい放題、言いたい放題を言い、歌い、この歌でも意表を突きそして真理を歌っている。故に人々の共感を生むのだろう。ともあれ謹賀新年。【半田俊夫】

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