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小さな街ですしとフュージョン:「ゆい」レストラン 

笑顔で撮影に応じるオーナーシェフの久永勝範さん

 パサデナの東、シエラマドレの街の一角に、すしとジャパニーズフュージョンの店「ゆい」レストランが看板を掲げて1年。不動産仲介業者に紹介されるまでこの小さな街を知らなかったと言うオーナーの久永勝範さん(40)は、「店の場所はどこでもいい。どこでもやっていける」という自信を基に2017年5月、新たな挑戦を始めた。【麻生美重、写真も】

 高校生のころ飲食店でアルバイトを始め、その後調理師専門学校を卒業。3年間の「板前修行」を経て渡米。その後ターザナにある串焼きレストランの老舗「串ゆう」で17年勤め上げた。同店のオーナーや元同僚から温かく送り出され、久永さんは満を持して門出の時を迎えた。  「独立は常に考えていた」という。「最近日本では30代の若手が店を出し独立している。それが刺激になった」世の中を知れば知るほど、自分でビジネスを持たなければいけないと感じた。法律や世の中のシステムがビジネスオーナーのために作られているようにも思えてきた。投資家からも声がかかるようになったが、自分で経営する方がいいと判断した。

ハマチの刺身にシラントロとハラペーニョを散らし、ガーリックポン酢をかけた一品、16ドル

 やがてシエラマドレに店舗が決まった。2人の子供が通う学校はもといたバレー地区。奥さんの慶子さんは開店準備のため、32マイル以上を往復する日々を送った。久永さんは言う。「メインのすしはもちろん、焼き物も創作料理もできるという自信があったので、どの場所でもやっていけると思っていた」

サンタバーバラ産(手前)と北海道産のウニの軍艦。ホタルイカ(中央)も今が旬

 実際に店を出すと、まず地元の住民が訪れ始めた。広告は打たず口コミで評判は広がっていった。現在の客層は人種でいえば半分が白人、次に多いのがアジア人。インド人も多いという。「以前勤めていた地域とは客層が違う。訪れる客の味の好みや、希望する調理方法、使う材料もずいぶん変わった」料理を盛り付ける手を休め、久永さんは続けた。「舌が肥えている人が多く、アジア系はとくに正統派のすしを好む傾向がある」新鮮な食材、旬の食材を求め、常に新しいメニューを尋ねてくるという。「客の希望に合わせて何でも作るようにしている。握りを好んで注文する人は私がスパイシーツナロールを作っていると驚く。逆に『カツはスパイシーツナロールの名人』と思っている人もいる」  「100人いたら100人にオリジナルの食事を提供したい」こう語る久永さんの思いはメニューにも反映している。その日の献立は毎日タイプし印刷する。ドリンク類も同様にアップデートする。

地元との結びつき、大切

ロサンゼルスでは2月くらいから入荷が始まるという初鰹(がつお)の造り

 取材の日は「兵庫産の鯵(あじ)」と「長崎産のアラカブ(カサゴの仲間)」が入荷していた。旬の「初鰹(がつお)」も美味というので握ってもらった。艶のある初鰹は程よい弾力があり、味はさっぱりとしているがカツオの旨味が残る。当店初入荷のアラカブは鮮やかな暖色系の魚。淡白な白身の握りは、柚子胡椒を添えていただく。  その日の食材をSNSで流すなど、客とのつながりを保つ努力も欠かさない。「インスタ映え」しそうなロールを一つ巻いてもらった。久永さんが笑顔で出した巻物は「ハラペーニョ・ライムロール」タイトル通り、ハラペーニョ天ぷらとサーモン天ぷらをソイペーパで外巻きにしたロールの上に、極薄切りのライム、サーモンとアボカドがのせられている。自家製のドライ・ブラッディオレンジのスライスを中央に飾って完成。ライムの味と香りが天ぷらの油っこさを中和させるので思わず箸が進む。時折やってくるハラペーニョの辛さを楽しみながら会話も弾む一品だ。

ハラペーニョとサーモンの天ぷらにライムを組み合わせ、さっぱりと仕上がった巻物、15ドル

 今はデザートメニューを置いているが、今後は隣に開店予定のカフェで注文することを計画中。「店内を飾る花も近所の花屋で仕入れる」こう語る慶子さんはコミュニティーを大切にするこの街の人たちに共感したようす。「みんな地元をとても大切にしている。小さな町ならではの温かさ、アットホーム感をすごく感じる場所。本当に大好きな町です」  1周年記念日は母の日の週末と重なる。この日の「ゆい」はいつも以上に予約を取るのが難しくなりそうだ。   電話626・325・3840 24 W Sierra Madre Blvd Unit A Sierra Madre, CA 91024 www.yuirestaurant.com

静かで景観も良く、夕暮れ時にも人通りのある街並み


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