top of page

学問と市民をつなぐ

 ロサンゼルスを飛び出してオーストリアのウイーンへ。親友と久々に再会した。  世界遺産の街を2人で散策し、ウイーン名物・仔牛のシュニッツエルやザッハトルテを味わう。その間も2人のガールズトークは止まらなかった。  私たちはハワイ大学の同じ寮に住んでいた。当時博士課程にいた彼女は現在ウイーンの国際機関に就職し、主に発展途上国で起きる自然災害のリスクを減らすための研究をしている。  一方私は、ロサンゼルスの大学院に移って国際政策を専攻した。現場の取材者として、見たこと聞いたことをどう政策に結びつけて現代社会の問題解決の一助とすればいいのか分からなかったからだ。  マスメディアの世界から被災地を見つめる私と学問の視点で見る彼女。2人にはいつも共通の問題意識がある―「いかに学問の研究成果を市民生活につなげて役に立つものにできるか」ということだ。  気候変動など発展途上国を中心に世界が直面する問題を扱う彼女の研究所は、白人の研究者がおよそ8割を占めている。「日本人(アジア人)で女性」という『ダブルマイノリティー』は最大の武器」と話す彼女は国際会議にマイノリティーの代表として出席し、マイノリティーの視点で国家の行う災害対策のあり方に疑問を投げかけていくことを心がけているという。  彼女の話によると、学者の世界では、有名な学会誌にどれだけ論文を発表したかが評価の対象になっていて、研究成果がどれだけ社会に反映できているかは二の次にされているという。研究成果を少し応用すれば、発展途上国や発言権を持たないマイノリティーの人たちの生活が豊かになるのに、多くの学者はそんなことに興味はなく「学者バカ」に陥っている現状を嘆く。  彼女の指摘はメディアの世界にいる私にも通じるものがある。私は記者としてそういった専門家たちと協力して一般市民をつなぐ役割を担いたい。政策提言も含めた問題解決型の記事をいつか書き上げるのが、長い人生における目標だ。2016年の夏、旅先のウイーンで親友と再会して、初心に帰ることができた。【中西奈緒】

1 view0 comments

Recent Posts

See All

熱海のMOA美術館に感動

この4月、日本を旅行中に東京から新幹線で45分の静岡県熱海で温泉に浸かり、翌日、山の上の美術館で北斎・広重展を開催中と聞き、これはぜひと訪れてこの美術館の素晴らしさに驚き魅せられた。その名はMOA美術館(以下モア)。日本でも欧米でもたくさんの美術館を見たがこれは 所蔵美術品の質と数の文化的高さ、豊かな自然の中に息を飲むパノラマ景観を持つ壮大な立地、個性豊かな美術館の建築設計など卓越した魅力のオンパ

アメリカ人の英国好き

ヘンリー王子とメーガン・マークルさんの結婚式が華やかに執り行われた。米メディアも大々的に報道した。  花嫁がアメリカ人であるということもあってのことだが、それにしてもアメリカ人の英王室に対する関心は異常としか言いようがない。  なぜ、アメリカ人はそんなにイギリス好きなのだろう。なぜ、「クィーンズ・イングリッシュ」に憧れるのだろう。アメリカはすでにイギリス系が多数を占める国家ではない。いわゆるア

野鳥の声に…

目覚める前のおぼろな意識の中で、鳥の鳴き声が聞こえた。聞き覚えがない心地よい響きに、そのまま床の中でしばらく聴き入っていた。そうだ…Audubonの掛け時計を鳴かせよう…  Audubonは、全米オーデュボン協会(1905年設立)のことで、鳥類の保護を主目的とする自然保護団体。ニューヨークに本部がある。今まで野鳥の名前だと思っていたが、画家で鳥類研究家のジョン・ジェームス・オーデュボン(1785

bottom of page