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人間性欠如を反省

 先日、買い物に出かけたスーパーでの出来事だ。日曜日の午前中で比較的空いていたが、レジ前に来ると二つしか開いておらず、皆大量に買い込むので、列がなかなか進まない。  僕が並ぼうと横から足を踏み入れると、高い陳列棚の陰で見えなかった通路まで伸びた列に、少しスペースを空けてすでにある男が立っていた。飲み物を手にし、紺のユニホームを着用したガッチリした体格のおじさんだ。彼もほぼ同時に半歩前に進んで列を詰めようとした。  彼と目が合い、僕から出た最初の言葉は、「列に並んでいたの?」だった。おじさんは、ニコリとして、「どうぞどうぞ。今朝は余裕あるから」と譲ってくれた。  のんびり日和が災いしているのか、レジの列は全く動かない。カードのスワイプやチップの入れ方が間違っていたり、クーポン券がうまい具合にスキャンしなかったり…。しばらくして後ろのおじさんは、隣のレジの列に移った。  その隣の列の最後尾には、ボロボロの麦わら帽子をかぶり、みすぼらしい服を着て、鼻ひげの小柄な老人が忍耐強く待っていた。10人程の客たちがイライラしだす。  すると、その鼻ひげ老人は、後ろについたのはユニホームの人と気付くや否や、手を差し出して、彼に順番を先に譲ったのである。  それを見ていた僕は、あれっ? と不思議に思った。なんでだろう? ユニホームのおじさんは、当初、遠慮していたが、サンキューとお礼を言い、英語を話せなさそうな老人は後ろに下がる。  やっとのことレジで支払い終えて僕は外に出た。すると駐車場に大きな消防車が止めてあり、数人の消防隊員が、買い物カートをまとめている。店員が走り寄って、ありがとう、と声をかける。  そこで初めて気付いた。あのおじさんは消防隊員だったのだ。あの老人は、コミュニティーを守ってくれる彼に敬意を評して順番を譲ったのだ。  僕は反省した。平気で列を割り込みした上に、社会に対する感謝、社会に貢献している人たちへの思いやりが欠けていた。親切だった消防隊員、そして気付かせてくれたあの老人に心で感謝した。【長土居政史】

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