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♪ ボケない小唄

 謹んで新春のお慶びを申し上げます。  新しい年の初めにいつも思うことは「年々歳々花相似たり、歳々年々人同じからず」という唐詩の一節。いろいろな思いが脳裏を走り、何かの理由で気持ちが晴れなかったり、仕事で疲れたりしている時など、日本で放映されたテレビのバラエティー番組をビデオで見ることがある。  最近は、どういうわけか「おバカ・キャラ(クター)」とか「テンネン(天然)キャラ」がもてはやされているようで、かの大宅壮一なら「一億総白痴化」と嘆くに違いないほどに、常識からずれた言動が幅を利かせている感じだ。それでも、それなりに面白いときもあるから、スポンサーも付き、番組として成り立っているのだろう。  先日も、50歳代の司会者が「このごろの若者は『御中』の使い方も、意味も知らない」と苦言を呈しながら若手タレントに説明を求めると、「オンチュウって、Want you のことですか?」と真顔で聞き返す。  別の番組では、別の若いタレントが「○○さんが転んでサコツを折ってしまったが、ウコツは大丈夫だったそうです」と話す。司会者も周囲の人も、しばし「……?!」。  左右1対になっている鎖骨を、左側にあるのがサコツ、右側にあるのをウコツと理解しているようだ。こうしたおバカ・キャラたちの発想には、思わず笑ってしまうが、一面の真理もあると思い直し、ただ苦笑。  同じような発言を、おバカ・キャラを売り物にしない一般人がしたら、世間の常識や作法を知らないとして周囲からバカにされ、傷ついたりする。そうなりたくないと思うのが普通だから、人は頑張って学習し、常識を身に付けようとする。  一体に、おバカ・キャラの人はもともと、他人の評価など気にしないタチか、傷つかない芯の強さの持ち主なのかもしれない。おバカ・キャラの人も天然キャラの人も、憎めない明るさがあり、持って生まれたうらやましい性格といえるだろう。  少しは彼らの真似ごとでもしたい気持ちもあるが、小さい頃にアメリカに来た人とは違って大人になってからのアメリカ生活の中では、おバカ・キャラ、天然キャラ的な英会話を知らないうちにしているのかもしれない。  英語を母国語としない悲哀を味わうこともあり、周囲から「おバカさん」に思われたこともあろう。英語独特のジョークやスラングが飛び交う映画やテレビのトークショーを見ても、半分以上は理解できないから笑えずに、いつも悔しい思いばかりだ。  おバカ・キャラや天然キャラの人はボケない、といった学説めいたことを言う人もいるが、それは俗説に過ぎないと思う。けれども近ごろ、「あんなに朗らかだった▽▽さんが最近、ちょっとボケてきたみたいよ」なんてことも、しばしば耳にする。「転ばない、食べ過ぎない、風邪引かない」といった心構えに、「ボケない」を加えたほうがよい世代の人にとって、『ボケない小唄』があると、畏友が教えてくれた。  その一節を引用すると、「何もしないでボンヤリと、テレビばかりを見ていると、のん気なようでも年を取り、いつの間にやらボケますよ」「何も挑戦しない人、人の噂とグチばかり、夢もチボウも逃げていく、10年早くボケますよ」「おしゃれも旅行も嫌いです、運動・散歩も大嫌い、お金とストレスためる人、人の2倍もボケますよ」「お酒もタバコもやらないで、ダンスも詩吟も興味なく、人のアラなど探す人、他人の3倍ボケますよ」(以下略)とある。  小唄調の忠告とは、シャレていて面白い。2017年の干支占いを見ると、全般的に運気が上昇する年で、健康運も大きなけがや病気にかかることはないとある。占いは、当たるも八卦、当たらぬも八卦だから、せいぜい気休め程度に受け止めたらいい。  それでも新年を迎えて健康が気になる人は、おバカ・キャラ、天然キャラの人の発言に耳を傾けてはいかがだろうか。案外と真実を突いたことばが聞けるのではないかと思ったりしている。  さあ、いよいよ1月20日(金)の正午を期して、トランプ大統領による政治が始まる。どのような動きになるか予測は難しいが、外交面だけでなく、国内的には税制や産業政策、移民制度、医療保険など、これまでとは違った展開になると思われる。  選挙期間中に見せた言動に添った政策を実行していけるのか、言行不一致に終わるのか。大統領自身がどれだけ確固たる信念に基づいて行動し、国民がそれをどう受け止めていくのか、見どころの多いトランプ政権1年目となる。  とにかく、アメリカが転んだり、風邪引いたり、ボケたりしてもらっては困るのである。【石原 嵩】

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