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スカイツリーと川

 梅雨の合間の一日、開業から4年経ったスカイツリーに上った。  雨の季節とあって人出は心配したほどではなく、入場券購入も「天望デッキ」(350㍍)・「天望回廊」(450㍍)への2度のエレベーターもさほど待たず、たちまちのうちに素晴らしい眺望が眼下に開けた。  すると目に飛び込んで来たのは、縦横に走る川の姿だった。日頃地図に見る東京は、鉄道網や高速道路網が蜘蛛の巣のように走っているイメージだ。ところが、450メートルの高所から見えたのは、鉄道でも道路でもなく、大地を網の目のように流れる川の様子だった。  スカイツリーのすぐ西側には南北に隅田川が流れ、観光用の屋形船も見える。その昔、川の西が武蔵、東が下総の国であったところから、二つの国を結ぶ橋が両国橋と呼ばれたとのこと。  目を東の筑波山方向に転じると、荒川が南北に走っている。その向こうは江戸川だ。スカイツリーの南側真下にも、隅田川と荒川をつなぐ川が東西に伸び、そこからはまた別の川や親水公園が南方向へまっすぐ伸びている。  荒川を上流方向に追いかけてぐるりと展望台を北側へ回ると、緑豊かな広い川原が目の前に姿を現した。高層ビル群よりも鉄道網よりも、川は目立つのだ。  関東平野は、川が運ぶ土砂と火山灰の堆積で作られた平野だ。かつて東京湾には利根川、渡良瀬川、荒川が流れ込み、ひとたび雨が降れば低地は長期にわたり湿地となったという。そこで徳川家康は利根川の流れを変えて太平洋へと流す事業に着手。30年かけ利根川が太平洋へつながると、水はけの良くなった土地は新田として開拓され、水運・灌漑のため多くの川が掘られた。  川と共存するための努力は今なお続けられている。明治末期、関東大水害での甚大な被害をきっかけに、荒川に放水路を建設することが決定された。難工事の末、放水路は昭和に入って完成。  展望台からは、幾重にも蛇行する中川をその荒川放水路(現荒川)が分断して流れる様子を見てとることが出来る。  スカイツリーは、ムサシにちなみ高さ634メートルの電波塔。日頃忘れがちな「東京の川」をも見る事の出来る観光スポットだ。 【楠瀬明子】

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