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めでたさの陰で

 日系コミュニティーでは、奉仕にいそしみ長年、社会を支えてきた人物、団体の功績をたたえ、各賞が贈られる。組織でリーダーシップを発揮する代表の受賞は、同じ人が幾度も選ばれることがよくあり、見慣れた光景に感動を覚えることはさほどない。だが、縁の下の力持ちとして、目立つことなく地味に働く控え目な人が顕彰されるのは、見ていて気持ちがいい。壇上で、照れながら脚光を浴びるのを見ると、受賞はいいものだと、つくづく思う。  一方、世界にはアカデミー、グラミー、国民栄誉賞、勲章、芥川、直木、各界の殿堂入りなどがある。有名な表彰の中で、ノーベル賞は世界で最も権威のある国際賞の1つだ。ここ数年は、同年に日本人が複数人受賞し、列島を沸かせた。今年も2人が受賞できうれしい。ただ毎年、受賞が有力視されながら逃している、日本が世界に誇る文豪が漏れたのは残念。来年に期待したい。  同じく世界規模で、賞ではないが、ユネスコの世界遺産入りは、その国の国民にとって喜ばしいこと。日本は、姫路城、法隆寺地域の仏教建造物を皮切りに、次々に登録され、富士山も認められ登山客や訪日客の増加に役立った。最近では、2年前に和食が無形文化遺産となり、国内のみならず、われわれ在外邦人の喜びは、ひとしおで、誇りに思った。  ところが、喜びもつかの間、今年は日本にとってふに落ちない登録が記憶遺産に決まった。旧日本軍がかかわったとされる事件の資料だ。このような負の文化遺産は、いかがなものかと思う。昨年登録された長崎の軍艦島で知られる「明治日本の産業革命遺産」も、近隣国から強制労働があったとして苦情が出たのが記憶に新しいが、さらには従軍慰安婦についても登録を目指しているといい厄介極まりない。  今回はまた、日本が求めた第2次大戦後の抑留者の資料が登録され、相手国から批判を受けた。日本にとっては、原爆ドームが認められただけに、事情は複雑なようだ。こうしたことが繰り返されると、富士山や姫路城の登録という、めでたさの陰で悲しい気持ちになる。戦争にかかわる遺産は、除外した方がいい。【永田 潤】

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