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いけばなという道

 知人の華道(いけばな)40周年を祝う会に出席した。会場には30余りの生け花が飾られていた。仕事に追われる日々の中、忘れかけていた日本の精神美を思い出させてくれた。  どの作品も、背筋がピンと伸び「凛として立つ」という表現がピッタリであった。草木の生きる姿に、ああ、いいなあ、と素直に感じ入るものがあった。中心にあるものが天を指し、中央は右に左に自由に広がる。思いもかけない異なる枝や草や花やが混在し、さながら森羅万象を連想させる。そして足元はハイヒールを履いた女性の足首のように、キリリと引き締まる。  縦横無尽に広がり天を目指す小宇宙を、細い足元がしっかり支える。しなやかな強さ。  華道は室町時代に始まり、550年の歴史を通過して、現在に引き継がれている。時代とともにスタイルは変化しても、春の芽生え、夏の繫茂、秋の彩り、冬の枯枝は変わらず、草木が生きる姿そのものの中に、美を見出す生け花の心も変わらない。  40年の教授歴を祝われた方は若くして夫を亡くし、二人の子供を育てながら今日に至った。米国で日本女性が日本文化を教える仕事を支えに、家族を養う重荷を負う。その困難は察して余りある。支られたのは、華道が教えるもの、先輩、仲間、お弟子さん、たくさんのよりどころがあったからこそだろう。  どんな仕事にも忍耐がいる。サラリーとは「がまん料」だという人もいた。しかし仕事があるからこそ多くの優れた人たち、物事、学ぶチャンスに恵まれたのも事実である。華道、茶道、道と名のつくものは、何百年の教えや知恵がある。一人では支えきれない生活苦や人生苦を切り抜け、清い人生を全うする力になったことは確かであろう。華道を通して自己表現もできた。  時代は大きく変化し、今や地球規模で物事は動く。取り残されないように、流れに沿いながら、日本古来の伝統文化も堅持する。それこそ豊かさに厚みが加わろうというもの。  さあ、裏庭から草木を拾い集め、生けてみようか。40年、華道を歩き通した方をたたえながら。【萩野千鶴子】

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