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「ガイジン」であること

 ちょっとびっくりしたのは、英語ネイティブのエディターたちが職場で日本語を話さないことだ。滞在歴10年から30年の「ベテラン外国人」たち。世間話でも日本語は出てこない。  彼らの多くは日本人女性がパートナー。和柄の短パンに雪駄(せった)で出勤してくる人もいるし、日本国籍を取って日本に骨をうずめたいとまで公言する人もいる。日本のニュースにも詳しい、テレビでよく見かける典型的な「ニッポン大好き外国人」なのに。  日常生活では日本語を使うようだが職場ではゼロ。日本人スタッフが英語を話せるから、使うのが恥ずかしいから、そもそも仕事で使えるレベルじゃないからと理由はさまざまだろう。ある同僚は日本語習得が長年の懸案であると吐露した。  日本で暮らす上で日本語を学ぶのは当然だと思うが、彼らの学習意欲を削いでしまう原因はむしろ彼らを甘やかす日本の事情にありそうだ。  日本人は日ごろ英語を話す機会が圧倒的に少ない。だからチャンスがあれば話したいと思う。英語を磨くために外国人が集まるバーにわざわざ行く人もいる。だからネイティブというだけで日本人にちやほやされやすいし、白人であればなおさらだ。外国人男性たちが「優しくて従順だと信じる大和撫子」は簡単に寄ってくる。  「ガイジン」であることの役得は日本が外国人を受け入れにくい社会であることも関係しているのではないか。長年日本に住むカリフォルニア出身の白人女性が以前こう話していた。「日本人じゃないから日本で仕事しやすいし生活しやすい」と。いまその意味がよく分かる。  外国人が日本で暮らすには「日本語がわからないふり」をしている方が楽で得なのだろう。特に日本の組織で働くならなおさらだ。「外国人だから仕方ない」と古い日本のしきたりや細かなルールを押し付けられずにも済むだろうし。  「郷に入っては郷に従わず」―そう考えると、ちょっと変な帰国子女として扱われて、普通の日本人と思われない方が、ずっと生き生きと仕事ができるかもしれない。彼らのように職場では日本語を使うのを極力控えようと思う。 【中西奈緒】

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