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「おつかれさま」

 いつの頃からか、この「お疲れさま」が耳につくようになった。言葉自体は悪くないし、仕事の後に相手の労をねぎらって「お疲れさまです」と言って別れるのは、普通のことだ。しかし、同僚でもない人から、会った最初に「お疲れさま」とあいさつされると、「はぁ…?」と何を労われているのかという感じがする。  出会ったときの「こんにちは」「おはようございます」には、同じ言葉をためらいもなく返せる。あいさつを交わしたことで気分よく次の言葉、行動に移せる。  最近の若い人は、という言い方は適切ではないかもしれないが、20代、30代、40代の知人たちと、冒頭の場面を繰り返している。先日、40代の知人に、あいさつに「こんにちは」でなく「お疲れさま」を使う訳を聞いてみた。「えっ?」と、何か変? と言わんばかりの表情で「ご苦労さまだったら、目上の人に失礼に当たるかもしれないけど、お疲れさまだったらいいんじゃないの」という言葉が返ってきた。失礼に当たらなかったらいいのか。普通に「こんにちは」「こんばんは」と言って入って来られないか、と言うと「お疲れさまは普通ですよ。言葉は時代で変わりますから。年代の差じゃないですか」と。年代の差と言われれば返す言葉がないが、私には「こんにちは」のあいさつをしてほしいと頼んだ。もちろん、用事が済んだ後には「お疲れさま」と言って別れた。  たかがあいさつ、しかし、人との付き合いの始まり。気にしないようにと思っても、気になる。同じ産業、特にマスコミ・芸能界での業界用語は、一般社会での使い方とは異なる。同じ業界にいない人は、違和感を持っても当然だろう。用事で一度か二度なじみのない業界の人と仕事をする時は、そのつもりになっているから問題ないが、普段、慣れない業界の使い方をされると戸惑うのは変だろうか。この頃の「お疲れさま」の使い方に、同様の感じを持つ。  今回の大統領選挙結果はストレスになっているのだろう。連日、示威活動が続いている。日常の中でも以前よりストレスが多くなっている現代。その現実を労って「おつかれさま」が口をついて出るのも、不思議ではないのかもしれない。【大石克子】

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