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大往生

 今月初め、一人の女性がみまかれた。誕生日には大きなケーキを用意しようと話していたのに、98歳になる10日前の出来事だった。  彼女との出会いは、高齢者昼食会の食事を届けたことだった。ふとしたことから、私の名前と彼女の弟の名前に使われている漢字の読み方が同じだということが分かった。そのことから、親近感をより強めたと思っている。  次第に老いて一人での生活が大変になったとき、彼女が信仰する高野山米国別院のお坊さん、スタッフが力になって看護ホームに入ることになった。直接かかわる役目に加えていただき、いろいろご縁をいただいてこの日を迎えた。どのご縁、どの出来事、その時の出会いかかわりの全てが、うまく運んで、本当に助けられた。  彼女は、野菜・果物、花を育てて、歌を詠み、書に親しむ生活をしていた。高野山に作った花を持ってお参りしていた。医者に縁のなかった彼女は、看護ホームに入ってからの薬を処方される生活は好んではいなかったが、快適な環境での生活を楽しんでいたと思う。  食べものをほしくないというようになって、アップルジュースだけを飲んで5カ月。最期の日まで話もできて、苦しむこともなく逝ってしまった。これが、大往生ではないかと思った。この、数日前に「よくこんなに長生きしたと思う」とつぶやくように言っていた。そのとき、故郷の景色や若いころのことを思い出していたのではないかと思う。「豆腐屋が2軒あって、豆腐はよく食べた」と言った。そういえば、昔を思い出すとき、出来事と一緒に食べものが不思議に蘇るような気がする。胃袋の記憶は大事かもしれない。  食べなくなって、ベッド上の生活が多くなったとき「お大師様がいいといってくれるから、こうしていられる」と、安心した顔で言った。お大師様が守ってくれているのだと思った。  旧敬老看護ホーム、中間看護施設のスタッフには、オーナー変更後も彼女の意思を尊重したケアをしていただいた。  あっぱれともいえる自然な老いの過程を見せてもらった。日本から、乳児の時、一緒に寝たという姪御さんが、葬儀に来られるという。 【大石克子】

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