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JFFLA2018で監督賞を受賞し、SF映画祭で「Magic Kimono」を上映する:桃井かおりさん

1951年、東京生まれ。家族は世界的音楽プロデューサーのKaz宇都宮さんと犬のおそでちゃん

 「日本にいるときの私は、実感できない不安定さの中にいました。チューブの中の絵の具みたいな気持ち。『自分は何色なんだろう』と。LAに来てからはいろいろな『色』になる楽しみを覚えた。他の俳優たちの色と混ざって新しい色になる楽しさです」

 日本で輝かしいキャリアを持ちながら単身渡米し、俳優としての新たなスタートを切って13年。自身を「チューブの中の絵の具」に例え、表現者としての変化を語った。   LA日本映画祭(JFFLA)2018でロサンゼルス初上映となった「火 Hee(16年)」。芥川賞作家・中村文則氏の短編小説「火」の映画化で桃井さんは念願の監督賞を受賞。授章式では会場へ向け喜びのスピーチを披露した。  主演・脚本・監督を手がけたこの作品は、ベルリン国際映画祭をはじめ香港映画祭、ウラジオストク国際映画祭、サンパウロ国際映画祭などで上映された。自宅やベニスビーチ周辺を撮影に使い、スタッフや俳優は現地で選考。知り合いのクリニックを使わせてもらうなど全編にLAが漂う。地元の映画祭JFFLAから招待を受け、「ようやくLAで上演できる」と喜んだ。   米国に移り住むきっかけとなったのは映画「SAYURI(05年)」の撮影後、アフレコのため再度訪れたとき。「車の免許、ソーシャルセキュリティ、銀行口座開設も全て自分でやってみました。十代でデビューし、若いころは公衆電話もかけられなかった。でもそれじゃいけないと気付いてからは、マネジャーなしで仕事をしてきました。ところが54歳でこちらへやってきて諸々の手続きをやってみたら、あまりにもできない。大人なのにできなくて悔しくて。後に続いて日本から来る人のためにも、できるようにしたいと思って頑張りました」  現在は拠点をLAに置き、世界各地からのオファーに俳優や監督として関わる。30日からはサンフランシスコ日本映画祭で「Magic Kimono」(16年)が上映される。バルト三国の一つ、ラトビア出身の映画監督マリス・マーティンソン氏によるラトビアと日本の初の合作。桃井さんの演じる主人公は不慮の事故で娘を亡くし、阪神大震災で夫も失った未亡人ケイコ。愛する人を失った悲しみと、彼らを守ることができなかった自己嫌悪にさいなまれている。  桃井さんは本作で主演のほか日本語の脚本も担当。マーティンソン監督とは「雨夜 香港コンフィデンシャル(10年)」でもタッグを組んでいる。「マリス監督は英語を話さないんですけど、不思議と通じるんです。それにどこの国の現場でも基本は同じ。照明はだいたい『照明のサワダさん』みたいな人がされているし」映画制作に言葉は重要ではないと力説する。   「ラトビアは大人から子どもまでが手をつなぎ、『人民のチェーン』を作って独立を勝ち取った国です。侵略による犠牲者が親族に一人はいるという。マリスに『愛しい人を失った辛さからどうやって立ち直ったのか』と聞いたら『死んだ人と共に生きる。そこにいるものとして共に生きるんだ』という答えが。荒技だけど、それで立ち直れるのなら、そうして生きていくことも一つの方法なのでしょう」  自然災害が続き、多くの犠牲者が出たこの夏の日本。桃井さんを通じて語られたマーティンソン監督の言葉に、救われるような思いがする。  今年の暮れからは映画製作が3本始まる。そのうち1本は桃井さんが監督する。「パターンにはまらない、今までにないものを作る。一般受けするようなものは作る気がしないから」  ハリウッドの俳優が相手でも「日本から来た桃井かおり。なかなか手応えがあった」そう思わせるだけの自信はある。俳優業、監督業で飛躍し続ける唯一無二の存在。今後もLAの同じ空の下で、たくさんの映画ファンが桃井さんを応援し続けるだろう。【麻生美重、写真も】

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