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野花が満開、ヒルカントリー:フレデリックスバーグ(テキサス)①

ドライブしながら花見が楽しめる

 カリフォルニアの記録的な干ばつは、4月上旬に州知事の宣言でようやく終息。冬に降った大雨のおかげで、砂漠に花が咲き乱れ、25年に一度あるかないかという「スーパーブルーム現象」を見ようという花見客で渋滞した。

 同じ頃、私は、テキサス州西部の街、フレデリックスバーグ(Fredericksburg)を訪れた。観光都市サンアントニオから北西へ1時間、州都オースティンから西へ1時間半。フレデリックスバーグがある一帯は、起伏に富んだ地形から「ヒルカントリー」と呼ばれ、毎年春になるとカラフルな野生の花が咲き誇る、全米有数の花見スポットだ。

カウボーイを乙女にする花

 サンアントニオの空港から車を走らせてヒルカントリーに入ると、とたんに景観が変わった。オークツリーが自在に

テキサスの州花、ブルーボネット

枝を伸ばし、初々しい緑が生い茂る。赤茶けて乾いたテキサスのイメージとは大違いだ。一瞬、バージニア州の丘陵地帯にでも迷い込んだような錯覚に陥った。  名物は、テキサスの州花、ブルーボネットである。小さな青紫の花がじゅうたんのように大地を覆う光景は、テキサス人の心を揺らす。「大きいことはいいことだ」とばかりにカウボーイハット姿で無骨に振る舞うテキサス人も、この可憐な小花を語るときは、乙女のような目つきになる。  赤くツンと尖ったテキサス・ペイントブラッシュ、ピンク色のワインカップ、黄色のコレオプシスなど、さまざまな野花の競演は見ごたえがある。  真っ赤なレッドポピーも、ヒルカントリーのシンボルだ。19世紀のヨーロッパで、「戦場の跡にポピーが咲き乱れ、兵士の墓の間を埋め尽くした」という言い伝えがある。テキサス自生の植物ではなかったが、戦没者や退役軍人への敬意を表す花として、積極的に栽培されるようになった。

「レディー・バード」の恩恵

 フレデリックスバーグの近くには、アメリカで2番目に大きなドーム状の花コウ岩「エンチャンテッド・ロック」がある。ここでハイキングやロッククライミング、サイクリングをしながら、花見を楽しむ人も多い。

「テキサス・ホワイトハウス」と呼ばれたジョンソン大統領の邸宅 ©Julia Ermlich / Courtesy of Fredericksburg CVB

 リンドン・B・ジョンソン第36代大統領は、ヒルカントリーの出身だ。「レディー・バード」の愛称で知られる大統領夫人は、フリーウエーの美化運動に力を入れた。雑草を抜いて、道路脇にたくさんの野花を植えたのが、今も残っている。そのおかげで、ヒルカントリーを東西に走る国道290号線をドライブするだけでもラクに花見ができる。  野花は、ヒューストンなど大都会の周辺にも咲く。しかし、フレデリックスバーグは海抜約1700フィートとテキサスの中でも標高が高く、気温はサンアントニオより華氏で10度低い。そのため花見のシーズンがほかの地域よりも長く、花びらの色もあでやかだ。  「テキサスの四季 = 暑い、もっと暑い、まだ暑い、シカ狩りの季節(Hot, Hotter, Still Hot, Deer Season)」というジョークがあるけれど、小川が流れて緑の多いフレデリックスバーグにはこれは当てはまらない。過ごしやすさに惹かれて、引退後はここで暮らしたいと願うテキサス人が多い、というのもうなずける。 ドイツ移民の「桃源郷」

レッドポピーは、戦没者や退役軍人のシンボルとして愛される花

 花見シーズンが終わると、ピーチの季節だ。フレデリックスバーグがあるギレスピー郡は、ピーチの生産量が州全体の4割を占める。5月中旬から8月上旬にかけて、国道沿いにピーチを売るスタンドが並ぶ。  ピーチが終わると、次はワイン。290号線は「ワインロード」とも呼ばれ、ジョンソン・シティーからフレデリックスバーグにかけて、40以上のワイナリーとテイスティングルームがある。カリフォルニアのナパに次いで、アメリカで最も訪問者の多いワイン街道がここだと聞いて、驚いた。  フレデリックスバーグは、19世紀半ばにドイツ移民が開拓した。当時、政策として国民に新天地アメリカへの移住を奨励していたドイツは、テキサスを宣伝するポスターに、緑にあふれブドウがたわわに実る桃源郷のようなイラストを描いていたそうだ。実際はそんな場所ではなく、開拓の道のりは険しかった。  今、ダウンタウンにはドイツ料理の店が数軒あり、開拓時代の建物を含めた街並みがきれいに保存されている。独特の雰囲気が人気で、人口1万人強の小さな街に、世界各地から旅行者が訪れる。1世紀半を経て、ポスターが夢見た桃源郷が実現した。(フレデリックスバーグ②に続く)(文・写真=佐藤美玲)


Wildseed Farms 100 Legacy Drive, Fredericksburg, TX www.WildSeedFarms.com アメリカで最大の野生の花の種を栽培する農場。ブルーボネット、ポピーなどが咲く花畑を一般開放している。ギフトショップで花の種やガーデニング用品を販売。カフェテリアでは、ソーセージをはさんだジャーマン・タコス、ピーチのアイスクリーム(左の写真)がおすすめ。

Lyndon B. Johnson National Historical Park www.NPS.gov/lyjo 第36代大統領、リンドン・B・ジョンソンの生前の邸宅と、所有していた農場が国立公園として一般公開されている。「テキサス・ホワイトハウス」と呼んで、大統領在任期間の4分の1にあたる490日間をここで過ごし、法案に署名したり海外の要人を迎えたりした。生まれ育った土地が人間性を養うと信じたジョンソンは、ここに来ると新しい希望が芽生え、バランスを取り戻せる、と語っていた。

公民権運動や反ベトナム戦争のうねりを受けて、人種差別と結びつく「南部の政治家」ではなく、「テキサスのカウボーイ」というイメージを振りまきたい、という狙いもあった。小型の大統領専用機「Air Force One-Half」が展示され、大統領夫妻の墓もある。「LBJブランド」の牛が放牧されている。


Luckenbach’s World Famous Watering Hole 412 Luckenbach Town Loop, Fredericksburg, TX www.LuckenbachTexas.com ラッケンバックは、カントリーの大御所ウィリー・ネルソンとウェイロン・ジェニングスが1976年に発表したヒット曲の題材になった場所で、ダンスホールとビアジョイントがある。有名なカントリー・ミュージシャンなら一度はここで演奏しているといい、ファンにとっては聖地だ。「Picker Circles」という伝統で、毎日オークツリーの下でギターを弾き、合唱する輪ができる。飛び入り参加も歓迎。テキサスの地ビール「Shiner」もしくは「Lone Star」を飲みながら、ライブに耳を傾けて。

der Lindenbaum 312 E. Main Street, Fredericksburg, TX www.DerLindenbaum.com 開拓時代から残る建物を利用したドイツ料理のレストラン&ビアガーデン。シュニッツェル、ブラックフォレスト・ケーキなどが人気。

Carol Hicks Bolton 301 S. Lincoln Street, Fredericksburg, TX www.CarolHicksBolton.com 「パイオニア・シック」を売りにした、おしゃれなアンティーク家具や、インテリア雑貨を売る店。日本人が好みそうな雰囲気。隣りにカフェもある。

フレデリックスバーグの観光情報はここで! www.VisitFredericksburgTX.com

佐藤美玲(Mirei Sato) ジャーナリスト。ロサンゼルス在住。東京生まれ。朝日新聞記者を経て、渡米。UCLA大学院アメリカ黒人研究学部卒業・修士号。UC Berkeley博士課程中退。日系雑誌の編集者を務め、フリー転身。旅を通して、歴史と文化、ランドスケープとアイデンティティーを探る。VenusAtPoise@gmail.com

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