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敬老売却問題:雇用契約解除金1000ドル

「雇用契約解除金」(解職手当金)について説明された書類

「雇用契約解除金」(解職手当金)について説明された書類

 敬老売却に関して1月28日、敬老側から従業員スタッフたちに売却に伴う今後の雇用などが記された資料が配られた。それによると、書類にサインした場合、フルタイムのスタッフに1000ドル、契約スタッフに500ドルの「雇用契約解除金」(解職手当金)が支給されるという。スタッフたちからは金額面などの不満だけでなく、将来への不安の声も聞かれる。【中西奈緒、モニエ中地美亜】

 今回の売却が成立した場合、全てのスタッフは敬老を解雇され、新しい会社に「全員」再雇用されることになっている。売却先のパシフィカ社が、看護ホームと中間看護ホームをアスペン社に、引退者ホームをノーススター社の2社にリースし運営を続けることになる。今現在、敬老にはおよそ500人が働いている。

 スタッフたちに配付された敬老売却後の雇用契約や保険などについて説明する資料の中に「雇用契約解除金」について概略、次のように記述されている。

 「敬老との『Severance and Release Agreement』の書類にサインをした場合、フルタイムのスタッフ(週32時間以上)に1000ドル、パートタイマーとして働いているスタッフ(解雇日前の90日間に1回以上のシフト)には500ドルが支払われる」

 2月2日現在、この「Severance and Release Agreement」にサインしたスタッフはまだいない模様で、このアグリーメントの詳しい内容も明らかになっていない。

 この「雇用契約解除金」は、連邦政府やカリフォルニア州から法的に義務づけられているものではない。しかし、米国労働省によるとこの契約解除金は多くの場合、従業員が解雇される際に支払われるもので、普通は「勤続年数に応じて相当額が支払われるもの」であるという。今回の敬老側からの提示は、勤続年数に応じたものでないことから、スタッフたちからの不満、そして「この契約解除金が本当に意味することはなんなのか」という憶測も生まれ、不安が広がっている。

◎スタッフたちの声

【フルタイム・12年・女性】「雇用契約解除金は賠償を意味していると思うのに、たったの1000ドルなのか」 【フルタイム・20年・女性】「ある会社は1000ドルに勤続年数を掛け合わせた額を支払ったことを知っている。私は20年間働いているから20000ドル受けとるべき」 【フルタイム・10年・女性】「こんなの口止め料に決まっている。たかが1000ドルくらいで、あとあと悪いように扱われたらたまらないので、そのアグリーメントをもらったらまずよく読んで、それから考える。確かに1000ドルは額が大きいし欲しい。でも、最初から予定していないものなのだから、なくたってやっていける。今後敬老に関することで、不利に扱われるなら、1000ドルは受け取らなくてもいいと思っている」 【フルタイム・13年・女性】「敬老を守る会の運動が大きくなってきているから、この1000ドルだってどうせとってつけたように付け加えたものに違いない。確かに、最低賃金で働いている私たちには大きい金額だし、ほかのスタッフも飛びつくとは思う。でも、こんなはした金ですべてを終わりにしようとしている上の人たちのもくろみが丸見えだ。まったくふざけている」 【パートタイム・3年・男性】「自分は3年しか働いていないからいいが、長く働いている人たちがかわいそう。このお金は、これから文句を言わせないためのものに見える」 【フルタイム・18年・女性】「1000ドルははっきりいって欲しいけれど、どうせ税金をとられたりで、たいした足しにはならないわけだから、変なアグリーメントにサインしないで、もらわないでいようと思っている。税金を引かれて手取り750ドルになったとして、そんなんだったらもらわないほうがいい。それに後になって、あなたはアグリーメントにサインしたじゃないかと強く出てこられて、恩着せがしくされるようなら、いりません」 【フルタイム・1年・女性】「いいジェスチャーとも受け取れるけれど、敬老側は私たちの信頼を得ようとしている。私は本当にどうすればいいのか分からない」 【パートタイム・2年半・男性】「こういうやり方は何か違うんじゃないかなと思う。新しい人も30年働いている人もいる。スタッフ1人1人に対する思いやりがない」 【フルタイム・9年・女性】「敬老のトップの人たちはたくさん稼いでいるのに、どうして自分たちにはたったの1000ドルなのか、とてもアンフェア。1000ドルあげるからおとなしくしなさい、と言われているみたい」 【フルタイム・1年未満・女性】「私は新しいメンバーなので、特に大きな違いはありません。しかし、売却後に自分の立場がどうなるのか心配している」 【フルタイム・14年・女性】「人によって勤続年数や働き方が違うし、一律に1000ドルと500ドルと分けるのはおかしい。これは口止め料だと思っている。私の周りで働いている人たちの約90パーセントはこの内容を知って『なにこれ?!』という反応をしていた。でも、中には、何ももらえないよりはまし、と考える人もいる」

◎三宅氏「全てのスタッフは再雇用」しかし、実態は?

 昨年9月、羅府新報がショーン三宅CEOにインタビューをした際「いままでたくさんの決断をしなくてはならなかったが、もっとも幸せなことの1つは、買い手に対して『すべての施設のスタッフを雇わないといけない』という州司法当局からの条件がつけられたこと。これはとても重要なことだ」と述べている。

 また、敬老のウエブ・ページに2月2日現在も掲載されている「Myths and Facts Regarding the Sale of the Keiro Facilities (敬老売却にまつわる噂と真実)」にも「現時点で働いている日本語を話せるスタッフを含むスタッフ全員が、居住者のお世話を続けます」との記述がある。

 しかし、まだ再雇用が保証されていないスタッフがいたり、あくまで売却移行期間は再雇用されても、試用期間の数カ月を過ぎたら解雇されるのではないか、と心配しているスタッフたちもいる。また、中には「営利会社に敬老施設が買われるということは、いずれ人員削減を求められるものだと、以前のエンザイン社との取引が行われていた時から上の人間に言われ続けてきた。だからもう仕方がないのかもしれない」と諦めるように話す人も。

 スタッフたちは弱い立場に立たされている。敬老が当局に提出し承認された資料によると、彼らはこれから再雇用されても、今までの勤続年数は配慮されず1年だけが加算されるのみ。初めの数ヶ月間は試用期間となり、その後にどうなるかは分からない。それ以前に、この売却のプロセスについて十分に説明がなされてこなかった現状があり、このことも彼らが不満や不安を募らせる原因にもなっているといえる。

 しかし、敬老には労働者としての立場を守るような「ユニオン(労働組合)」もないことから、自分たちの意見を伝え、経営者たちと向き合っていくことは容易ではなく、この取引の中で彼らの立場が正当に守られているとはとてもいえない。

 三宅氏がたびたび述べてきた「全ての施設のスタッフは再雇用される」という言葉をいまどう捉えたらいいのだろうか。あくまで、州司法当局から一度拒否された売却を今度こそ承認してもらうために、売却手続きをスムーズに進めるために、また、スタッフたちからの反対を避けるための発言だったのだろうか。

◎今後の見通し

 スタッフに配布された一番最新のレター(1月29日付け)によると「エスクロ―が2月5日に閉まると伝えられていましたが、遅れています。それにより、敬老との契約はまだ続きます」と書かれている。2月1日には敬老で緊急の理事会が開催された。過去、3回にわたって行われた州公正雇用住宅局、州司法当局、守る会、パシフィカとの調停を元に話し合いがもたれたとみられ、近いうちに何らかの発表があると予想されている。

 ※「雇用契約解除金」の具体的な内容に関する羅府新報の問い合わせに対し、2月2日午後5時の時点で、敬老側からの返答は得られていない。

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