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ロサンゼルス郡:「敬老」調査に乗り出す【中】

証言に立った「高齢者を守る会」副会長の池田啓子氏(右)と松元健氏(左)(写真=マリオ・レイエス)

証言に立った「高齢者を守る会」副会長の池田啓子氏(右)と松元健氏(左)(写真=マリオ・レイエス)

 ロサンゼルス郡のスーパーバイザー(参事官)が、敬老4施設の売却に懸念があると判断し、関連する3つの郡当局に調査を命令することが決まった。12日に開かれたスーパーバイザー定例議会ではコミュニティーのメンバーが証言台に立った。【中西奈緒】

動議を提出したスーパーバイザーのヒルダ・ソリス議長

動議を提出したスーパーバイザーのヒルダ・ソリス議長

 その日の定例議会では、ジュディー・チュウ連邦下院議員やその他9人の連邦下院議員たちの賛同を得て、スーパーバイザーのヒルダ・ソリス議長とマーク・リドリー・トーマス副議長の共同動議で「敬老4施設の売却について、そのプロセス、公共の福祉、居住者の安全に関して懸念がある」ことが提起され、コミュニティーから10人のメンバーが動議への賛同を示すために証言台に立った。

 その10人は、マキシン・ウォータース議員の事務所スタッフであるショーン・フレミング・ジュニア、非営利団体「高齢者を守る会」(旧、敬老を守る会)のレイ浜口、アデル・ラッツ、堀尾誠治、モー西田、チャールズ井川、デビッド渡辺、入江健二、池田啓子、松元健の各氏。証言者にはそれぞれ3分間与えられ、売却プロセスの問題点、その現在への影響などについて証言し、スーパーバイザーたちは真剣に耳を傾けた。

◎証言者の声ー敬老は最後の止まり木

不動産コンサルタントのレイ浜口氏

不動産コンサルタントのレイ浜口氏

 「2人の公認会計士(CPA)が敬老シニアヘルスケアの財務資料を精査したが、赤字はなかった」と話すのは不動産コンサルタントのレイ浜口氏。「敬老の資産は売却後7000万ドルを超える額になっている。今後これがどのように使われるかいまだに不明のまま」とし、ボイルハイツの不動産に関して「州司法当局に提出された書類では700万ドルと見積もられているが、実際は2500万ドル近い値打ちがある物件だ。また、この地域はロサンゼルスの中でも最も早い勢いで高級化が進行している地域だ」と主張した。

 社会学博士でUCアーバインで教べんをとっていたチャールズ井川氏は「サービス提供の対象が日系アメリカ人であるヘルスケアシステムにおいて、敬老は根本的に間違ったマネジメント戦略を立てた。

社会学博士のチャールズ井川氏

社会学博士のチャールズ井川氏

 それは日系アメリカ人に関する疑問が多い分析調査を基にしているからだ。戦後の日系アメリカ社会で最も顕著な誤りの一つは、戦後移住者の存在の事実が無視、あるいは軽視されてきたこと。 敬老マネジメントは、日系アメリカ人を定義づけるにあたって言語的、心理的面における幅広い分布の実態を注意深く分析してこなかった。その結果、敬老を売却するという方法が安易に選択されてしまった」と話した。

 医師の松元健氏は「今回の売却は敬老から提出された不備・不正としかいいようのない情報をもとに審査され、信用責任は放棄され、適切な注意が払われていない状況下で行われた」と指摘し、「売却はまったく必要ではなかった。敬老マネジメントが売却の根拠として示したのは、日系社会を構成する人たちの変動の実態とメディケア・メディカルの支払いシステムにおける変更のみ。

医師の松元健氏

医師の松元健氏

 不動産開発を専門とするパシフィカ社に売却したことで、いかにこれが詭弁(きべん)であったかということを露呈した。施設を売却せずに、今回パシフィカ社が行っているような方法(別の会社に運営を任せる)を取る選択肢もあり、将来の不況に備えることができたはず」と話した。

 南加庭園業連盟の堀尾誠治氏は、日系アメリカ人や戦後に移住した日本人たちがガーデナー(庭園業者)として懸命に働き、アメリカ社会に大きく貢献してきた歴史について話し、「私たちは子どもたちの教育のために一生懸命に働いてきた。敬老で老後を過すことが私たちの望みだった。敬老は最後の止まり木だと考えていた」と訴えた。

南加庭園業連盟の堀尾誠治氏

南加庭園業連盟の堀尾誠治氏

 臨床心理学博士の池田啓子氏は「州司法長官が決めた条件の下では、今でも将来においても、居住者は敬老に住み続けることは不可能だろう」と話す。「日本語を話す看護師、看護補助師、正看護師、必要に応じて居住者を乗せて運転していたバンの運転手たちも多く辞めていっている。他の人たちもすでに新しい就職先をあちこちで探している状況だ」とし、その理由として、オーナーが変わったことによって今まで働いた年数が配慮されず、また、健康保険も保険料の高いものに変わり、支払うことが難しくなっているなどの理由をあげた。

 さらに、多くのボランティアたちが辞めていることから、先祖から引き継がれてきた伝統やしきたりに根ざした日本の文化的な活動が十分に提供されなくなったと話し「言語の能力、スタッフやボランティアの働きがなければ、文化的なサービスが継続されるのは不可能だ」と伝えた。

 医師の入江健二氏は、池田氏の言葉に同調し「多くの優秀なバイリンガルのスタッフが退職せざるを得ない状況になってきている。これは売却される前にショーン三宅CEOが約束していたことと違う。売却前に予期されていた悲惨なことが急速に現実として起こりつつある」と訴えた。松元、池田、入江の三氏は看護ホームの患者を長年診ている

◎動議可決ー第4区カナべ氏は棄権

 証言が終わると直ちに、動議は採決され、可決した。5人のスーパーバイザーのうち、ソリス議長とトーマス副議長、シェイラ・クエル氏(第3区)が議案に賛成し、ドン・カナべ氏(第4区)は棄権した。マイク・アントノビッチ氏(第5区)は議会に出席できなかったが「100パーセントこの議案に賛成している」とオフィススタッフのトニー・ベル氏は伝えている。

 カナベ氏が棄権した理由について、オフィススタッフのアンドリュー・ベイズ氏は「全ての話には2つの側面がある。この問題に関して両サイドから話を聞いて、ロサンゼルス郡が関わる前に、カリフォルニア州と州司法長官が問題を解決するのがベストな方法だ」とカナベ氏は考えているという。

 動議が採決され、可決されたことで、スーパーバイザーたちはロサンゼルス郡の「消費者ビジネス局」「郡評議会(法律顧問局)」「公衆衛生局」に調査を命令することになった。(具体的な調査内容は最終回の【下】に掲載)

左から入江健二氏、デビッド渡辺氏、池田啓子氏

左から入江健二氏、デビッド渡辺氏、池田啓子氏


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