障害者の生活、視線入力で向上:金森教授ら招きiPad使った勉強会
視線入力ソフトの使い方を説明する金森教授(左)と熱心に耳を傾ける参加者
障害を持つ子ども達の、日本語を話す親たちが組織するサポートグループ「手をつなぐ親の会」(Japanese Speaking Parents Association of Children with Challenges=JSPACC、会員約200人)はこのほど、日本福祉大学スポーツ科学部教授の金森克浩氏をメインスピーカーとして招き、「iPadを使うコミュニケーション実践方法、視線入力はここまですごい!」と題した「視線入力」についてのセミナーをロサンゼルスの立正佼成会で行った。【麻生美重、写真も】
参加者から質問を受ける福島教諭(右)
金森教授とともに会を訪れたのは、福岡市立今津特別支援学校教諭の福島勇さん、西部島根医療福祉センター作業療法士の引地晶久さん、視線入力コミュニケーションソフトを開発する「ユニコーン」の中島勝幸社長と沖野公二副社長ら研究開発チーム。
アシスティブテクノロジー(補助技術)を使った障害児教育を専門とする金森教授はまず、iPadを使ったコミュニケーションの実践方法として、 視線入力ソフトの使用方法について説明、指導を行った。
あらかじめiPadやiPhoneにソフトをダウンロードし、それらを持参した参加者約30人は、教授の映し出すスクリーンを見ながら、手元の操作ボタンや画面上のアイコンを操作した。操作に行き詰まった保護者を福島教諭がていねいにサポートする様子もうかがえた。
同教授ら共同開発チームは、障害者を支える最新技術をテーマとした世界最大規模の国際会議出席のため、数日前よりアナハイムを訪問していた。「親の会」はこれを絶好の機会と捉え、勉強会を開くことを決定。最新の視線入力技術を学べるとあって、参加者はみな熱心に金森教授の話に聞き入った。
沖野公二さんから視覚ソフトの説明を受ける野嶋祐子さんと娘の紗衣さん
マイクロソフトと協力し開発を進める「ユニコーン」副社長の沖野さんは、同社の開発した視線入力ソフト「ミヤスク」の正確さに自信を持つ。利用者がスクリーン上のキーボードやアイコンに視線を送ることで文字を入力、選択する「ミヤスク」は「誤差が生じにくく評判が良い」と胸を張る。iPadも同じような機能を持つが、「やや大ざっぱな動きのため正確さに欠けるところがある」との視点も示した。
社長の中島さんとともに500人以上の障害者を訪ね、さまざまな問題を抱えた利用者が意思を伝えやすい設定を研究してきた。それまで天井しか見ていなかった人が、「トイレに行きたい」、「腰が痛い」と伝えられるようになる 。この変化は技術者である沖野さんらに驚きや感激、勇気を与える。中島さんは「ITを使って患者のニーズにどこまで対応できるか、模索しながら開発を続ける」と力強く語った。
分身ロボット「OriHime (オリヒメ)」を通して、日本にいる人と会話を楽しんでいる能社くん
午後からは希望者への個別相談を行った。金森教授、福島教諭、引地さん、沖野さんが相談者と利用者に視線入力を実際に試させたり、操作方法を指導するなどした。
先天性多発性関節拘縮症の障害を持つリザちゃん(7)は、関節が曲がらない症状を持って生まれてきた。毋の雅弥さんは「ボタンを押すことに飽きたり、疲れたりした時に視線入力が使えるのではないか、その可能性があるならと思い参加した」。リザちゃんは視線入力ソフトを使い、画面に動く物体の狙い撃ちなどに初挑戦。うまく的に当たると親子で笑顔を浮かべた。
ある母親は、普段の生活で使い慣れているはずのiPhoneに、これまで知らなかった機能があると知り、福島教諭に習って使用方法を修得した。「娘の好きな動画を保存する作業が楽になる」と喜んだ。
金森教授と福島教諭は前々日の世界会議で、およそ40人を前に研究発表をした。視線入力の先進国スウェーデンをはじめとする各国の参加者から好意的な意見をもらい手応えを感じた。
視線入力ソフトに初挑戦する娘のりざちゃんと母の古阪雅弥さん
日本の支援学校でのタブレット使用が進まない現状について金森教授は「普及の壁を感じる」という。「学校の先生たちはテクノロジーに苦手意識を持たず、子どもたちのために勉強し、取り組んでほしい」と話す。 このグループのメンバーの馬上真理子さんは当地の現状を踏まえ感想を述べた。「法律の下、 アシスティブテクノロジーの査定が行われ、教育的サービスを障害児に提供することになっている。しかし言葉や文化の違いから思うようなサービスを受けられないこともある。第一線で活躍する金森先生ら専門家の日本語でのセミナーは、私たちにとって大きな情報源となった。自分の子どもに活用できる様々なアイディアを得られたと思う」 視線入力などの新しい技術の導入があれば、発達障害の子どもたちばかりでなく、病気で意思疎通が困難な高齢者にも可能性が広がる。アシスティブテクノロジーの利用が、世界中どこの地域にいても広く一般に普及する日が早く訪れることを期待したい。
「手をつなぐ親の会」のメールアドレスとウェブサイト
info@jspacc.org
www.jspacc.org
集合写真に納まる「親の会」メンバーと視線入力ソフト研究開発チーム
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