被災3県の中高生が米研修:貴重な経験積み、大きく成長
ヤクルトの工場見学に訪れた生徒たち
東日本大震災の被災地宮城、岩手、福島の3県から男女中高生20人がこのほど来米し、約2週間の研修「トモダチMUFG国際交流プログラム」に参加した。ホームステイをして英語と米国の文化や生活様式を学んだり、ボランティア活動をしたり、日系企業や日系社会の団体を訪問し、貴重な経験を積み大きく成長した。
毎年の同プログラムは、CSR(企業の社会貢献活動)に力を注ぐ三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、震災の翌年の2012年から実施している。生徒に同行したMUFGコーポレート・コミュニケーション部企画グループの調査役、松本伸一郎さんによると、今年で5回目で、日米の生徒が1年おきに交互でプログラムに参加(過去に訪米3回、訪日2回)し交流している。訪日した子どもたちの家族の多くが、被災生徒を受け入れており「恩返しをしてくれている」(松本さん)。その費用は全額、MUFGが負担している。
生徒について松本さんは「遊びや観光ではなく、各自が目的意識を持って参加し、それをどのように将来に役立てるのかを考えて、取り組んでいて、プログラムを一つのきっかけにしようとしている子どもたちが多い」と強調する。
一行は、UCLAの学生寮に泊まったり、カリフォルニア工科大学を訪問したり、全米日系人博物館を見学し日本人俳優の講話でハリウッド映画界の事情を聴いたり、ドジャー球場で野球観戦、調理のボランティア、タナカ・ファームズ見学、MUFGユニオンバンクの金融講義受講などを体験し、視野を広げた。 福島県郡山市の上田稜真さん(高2)は、11歳の時に被災した。「復興や原発問題など地元の現状を世界にずっと伝えたかった」といい、同プログラムに応募したという。また、国連で働くことを志しており「英語を学び将来、大学留学したり、外国で働くきっかけになればいいと思った」という。「いろんな人に出会い、いい体験ができた。いろんないい意見を聞いたので、それを吸収して自分の一番いい方法につなげて、将来に役立てたい」と抱負を述べた。 千田瑠音さん(中3)は、10歳の時に地元宮城県栗原市で被災。日本と諸外国からの救援に対し「とてもありがたく思った」と恩に着る。地震発生から5年たったが依然「がれきが残り、復興はまだまだ」と説明する。プログラムに参加したことで「(被災時に)助けてもらった国のアメリカに来て、そのありがたさをあらためて思い知った」と感謝に堪えない様子で話した。滞米中に、憧れる大型バイクを幾度も目にし「かっこよかった。思い出になった」と喜び、将来は機械工学を学んで、エンジニアになる夢をさらに膨らませた。米国人に話しかけられたが「速く話したので、聴き取ることができなかった」と悔しい思いをしたといい、帰国後は「英語をもっと勉強したい」と決意を新たにした。 生徒が見学に訪れたアーバインのタナカ・ファームズのオーナー、グレン・タナカさんは、参加者を歓待した。タナカさんは、東日本大震災の被災農家を支援し毎年1度、同農園を開放したチャリティーイベント
UCLAで、ホストファミリーの出迎えを受ける千田瑠音さん(右端)と中川梨紗子さん(左隣)
「ウォーク・ザ・ファーム」を催している。支援継続の理由を「被災者は家や財産など、すべてを失った。同じ農家として、気持ちが分かるので続けている」と説く。今回、夕食を振る舞い交流した生徒に対しては「東北に戻り、地元と日本、そしてアメリカのためにも役に立つ大人になってほしい」とエールを送った。同プログラムについては「とてもすばらしい生徒の将来への投資である」と表現し、ユニオンバンクなどの日系企業や団体の生徒の受け入れ態勢を称賛し「これからもずっと続けて生徒を支援してほしい」と願った。 松本さんは生徒について、到着当初は受け身だったというが、さまざまな職業体験者の話を聴いて刺激を受けまた、6日間のホームステイでは1人で対応しなければならず、現地の人々に積極的に話しかけるなど、成長を目の当たりにしたことに満足し、プログラムの意義を強調。「生徒それぞれが、いつか進路を選ぶ時に、このプログラムのことを思い出してもらえればいい。一生の記憶に残る出来事が、一つはあったはず。『ライフチェンジング・プログラム』になってもらえればうれしい」と期待を寄せた。【永田 潤】
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