男泣きを再び
プレーオフシーズンたけなわの日米のプロ野球。熱戦に目が離せない中、ロサンゼルスと広島でプレーした一野球人のストーリーを紹介したい。その主人公は、数日前に現役引退を表明した黒田だ。 高校時代は控え投手で、大学を経てドラフト2位で入団した球歴を、意外に思うだろう。だが、メジャーにまで上り詰めたのは「努力」の一語に尽きる。ドジャース時代に、取材で話を聞いた時に「すごくない自分がここ(メジャー)にいるのが、すごい」と、よく口にしていたのは、そういう理由からだ。 誰も批判することのない人格者は、不言実行タイプで、完封勝利した時も浮かれず次に向け「ローテーションを守る」「チームの勝利に貢献する」などと、おごることは一度もなかった。マウンド上の勇姿は「好投」や「快投」というよりも、黙々と投げた「粘投」が当てはまった。 元同僚で、サイ・ヤング賞3度受賞のカーショーと前田の両投手が尊敬する。カーショーはキャッチボール相手で、先発前の黒田のブルペン練習を毎回、迷惑をかけないように控え目に脇から見ていたのが印象的だった。ドジャースは、ワールドシリーズ進出に向け一戦も落とすことのできない背水の陣。ここで踏ん張り、広島とともに同年優勝し、黒田に捧げてもらいたい。 両親を早くして、がんで亡くした。その無念から、がん撲滅の思いは人一倍強く、LAのがん基金と専門病院に、4年にわたり総額30万ドルを寄付した。黒田は、チームの勝利のみならず、がんの研究とその撃退にも貢献したことを覚えていてほしい。がんの闘病中だった日系人少女が始球式を務めた際に、事情を話すと、試合前にフィールドに来て、激励してくれた優しさを忘れはしない。 黒田とプレーした大リーガーが賛辞を贈ったり「お疲れさま」などと労をねぎらうが、もうひと頑張りして、男の花道、有終の美を日本一で飾ってもらいたい。リーグ優勝の決定時には胴上げされ、人目もはばからず男泣きした。もう一度見たい。【永田 潤】
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