ユダヤ難民救済、もう一人の日本人:「命のビザ」をつないだ小辻節三
在ロサンゼルス日本総領事館はこのほど、ユダヤ系団体「サイモンウィーゼンタール・センター」と日米文化会館(JACCC)との共催で「アフター杉原―小辻節三のユダヤ難民救済」をロサンゼルス寛容博物館(Museum of Tolerance)で開催した。
小辻節三に関する講演会の主催者ら。左からクーパー氏、平田真希子氏、広瀬佳司教授、山田純大氏、ゲフト寛容博物館館長、モオコ日米文化会館暫定館長、千葉明総領事と夫人の裕子さん(在ロサンゼルス日本総領事館提供)
ナチスの恐怖からユダヤ難民を救った人物では、「日本のシンドラー」と呼ばれた外交官・杉原千畝(1990―1986)が内外で広く知られている。杉原が発行した「命のビザ」を手に日本に逃れてきたユダヤ難民は約4600人。しかし、やっとの思いでたどり着いた日本で彼らに許された滞在期間はわずか10日間。次の引受先が決まらなければナチスドイツへ送り返されてしまう。窮地に追い込まれたユダヤ難民たちのために命がけで救いの手を差し延べたのが、小辻節三(1899―1973)という40代のヘブライ語学者だった。
この日のイベントでは「小辻が、なぜ、どのようにして、ユダヤ難民たちを安全な地へと導いたのか」という問いに答えるため、2人の講演者が日本から訪れ登壇した。また、第二次世界大戦中に日本へ逃れてきたユダヤ難民の音楽家たちに敬意を表し、平田真希子博士によるピアノ演奏も披露された。
杉原と小辻を比較しながら講演する広瀬佳司ノートルダム清心女子大学英米文学教授
サイモン・ウィーゼンタール・センターのラビ・アブラハム・クーパー副所長に紹介され最初に講演台に立ったのは、『知られざる日本人救助者――小辻節三』『笑いとユーモアのユダヤ文学』などの著者である広瀬佳司ノートルダム清心女子大学英米文学教授。
日本ユダヤ系作家研究会会長、アメリカ・イディッシュ語協会の理事も務めている広瀬教授は、杉原千畝と小辻節三に関係する歴史的、思想・宗教的な背景を説明し、ユダヤ難民救助者である2人の接点を講演した。広瀬教授はイディッシュ語のジョークを挟むなどのユーモアを交え、200人以上の観衆からは笑い声が起こった。
次に、『命のビザを繋いだ男 小辻節三とユダヤ難民』の著者であり、朝のNHK連続テレビ小説「あぐり」や「水戸黄門」「3年B組金八先生」等への出演で知られる俳優の山田純大氏が登壇。
山田氏はマリブ市のペパーダイン大学在籍中に杉原の存在を知る。「(ユダヤ人を送った)センダーが杉原なら日本でのレシーバーは誰」。疑問を抱いた山田氏はリサーチを進め、当地で出版された小辻の自伝『東京からエルサレムへ』とめぐり会う。
小辻の長女メリー氏から届いたメッセージ
小辻のユダヤ難民救済についてさらに研究を進めるうちに、小辻と交流のあったNY在住のユダヤ人指導者、ラビ・マーヴィン・トケイヤーや、小辻氏の2人の娘、小辻メリー氏、ジュリー氏とも親交を深めるチャンスを得るように。
山田氏は俳優業としても多忙な中、第一人者として小辻の研究を続ける。10年以上かけて集めた貴重な資料や写真を用い、落ち着いた語り口で、会場を埋めたユダヤ人らに届けた。後半の質疑応答も含めた講演内容は、会場を訪れたほとんどの人が知ることのなかった、小辻という人物の人間性に満ちたものだった。
来場者は公演後のレセプション会場で講演者や主催者らと歓談した。
夫と訪れたビバリー・フリードさんは「2人ともプレゼンテーションがわかりやすくとても上手だった。一般にはあまり知られていない人物、小辻の成し遂げた大切な事柄を違った角度から示してくれた。残念だったのは、われわれが満席にできなかったこと。若い人もその両親も、今日この講演会にくるべきだった。また次の機会があることを期待する」と話した。 ダレン・モオコ日米文化会館暫定館長は「今日学んだ歴史はとても意味深い。すばらしい講演会になったことを嬉しく思う。総領事館からお話をもらい、短い準備期間ではあったけれど実現できた。多人種同士が協力すれば、互いの歴史から学べ、現在への理解も深まる。このような企画を他の人種とも進めていきたいと思う」 千葉総領事は「1年ほど前に広瀬先生がホロコースト博物館で小辻について講演をされた。その際『プレゼンテーションがお上手な方』という印象を持った。今回(講演者)お二人の都合が合い実現した」「ユダヤ・日本人については、ロンドン在住の日本人監督が作った映画のイベントも進めていきたい」と述べた。 広瀬教授は「わたしは小辻と同じくユダヤやヘブライ語に惹かれた。彼の中に自分と同じパッションを見つけたので、彼のことがよくわかる。小辻は何か大きなことをしようとしてユダヤ難民を助けたのではなく、ハートで助けたのだと思う」と熱心に語った。【麻生美重、写真も】
質疑応答をする、左からリーベ・ゲフト寛容博物館館長、広瀬教授と山田氏(右)
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