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「流れに棹さす」

 漱石の「草枕」の冒頭の一部に「情に棹させば流される」がある。その前が「智に働けば角が立つ」、後が「意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」と続く。この「棹させば」の元となる表現「流れに棹さす」が昔からあるが、現代日本人の多くがこの正しい意味を誤解していると、文化庁が調査報告を出している。正しい意味は「流れに棹を使って水の勢いに乗る」つまり「時流に乗る、傾向に乗って勢いを増す」だが、日本人の半数以上の約6割が「傾向に逆らって勢いを失わせる、時流に逆らう」などと誤解しているそうだ。「水をさす」との混同もあるようだ。  このような誤用が多数派という例はこれ以外に「役不足」「煮詰まる」などいろいろにたくさんあるらしく、どうしてそうなるのか、日本語の継承が揺らぐ感がある。言葉が時代と共に変化するのは世の常というがそれは簡単に受け入れたくない。時に誤用が定着して意味が時代で逆転したり、使われないため忘れられる故の死語が年々出ている現象は、貴重な日本語文化の死滅で是としたくない。  日本語彙の死滅や日本人の日本語力の低下の原因は何だろう。言葉の世界は一般に悪貨が良貨を駆逐する。無知や誤解による言葉の誤用は伝染し広がり定着しやすい。日本人は流行語や新語も好きだ。外来語の使用も大好きだ。明治維新後の文明開化や第二次大戦の敗戦後に見える欧米への憧れや劣等感も底流にあるのかもしれない。  だが母国語への愛と誇りで頑に自国語を守ろうとするフランスのような国もある。日本人の姿勢も問われるのではないか。  前述の役不足は「その役にはその人では不足だ」は誤用で「その人にはその役は小さ過ぎる」が正しく、煮詰まるは「行き詰まる、よい考えに行き着かない」などが誤用で「議論が十分にされ結論が出る状態に近づく」が正しいが、一般に誤用が多数だそうだ。  日本語を使い、よき味わいに触れ親しむと日本人である幸せを感じる。日本語という日本人の財産を大事に継承し、劣化させず育てていくのは地球上で日本人だけの仕事だ。日本語を可愛がり大切に使い生かしてゆきたいものだ。【半田俊夫】

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